2020-03-05 16:30:53
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よいしょ…よいしょ…。
ミトンをした小さな手が、オーブンから重いプレートを一生懸命に抜き出します。
プレートの上の焼きたてのカップケーキを見るなり、七瀬ちゃんは重さも忘れて笑顔になりました。
チョコ味のカップケーキが五つ。
ふっかふか、いい香り。美味しそうに焼けています。
今日はバレンタインデーです。七瀬ちゃんは、パパとママのためにカップケーキを作ったのです。
七瀬ちゃんのパパは、とてもお仕事を頑張っていて、とてもママを愛していて、とても七瀬ちゃんを可愛がってくれる大好きなパパです。
七瀬ちゃんのママも大好きだけど、病気がちで今日もお部屋で寝ています。学校から帰った七瀬ちゃんが、毎日家事を頑張っています。
パパに大好きの気持ちを込めて、ママに元気になっての願いを込めて、七瀬ちゃんはチョコケーキをきれいにラッピングしようと思いました。
七瀬ちゃんのお部屋に、可愛いラッピング用のリボンや袋があるはずです。
プレートをテーブルに置き、エプロンを外すと七瀬ちゃんは急いで自分の部屋へと向かいました。
キッチンに戻った七瀬ちゃんはそこを一目見るなり、すぅーっと魂が抜けました。
いつの間に起きてきたのか、下着姿のママがスマホをスッスしながら、カップケーキを五つとも食べ散らかしていたのです。
すぅーっとなるのも無理もありません。
わくわく、どきどきしていた七瀬ちゃんのハートは、ひび割れました。ハートブレイクも無理もありません。
七瀬ちゃんは、割れたハートを胸にしまったまま、涙を我慢してカップケーキの残骸をお掃除しました。
これからお夕飯を作らなければいけません。
泣いている暇は、七瀬ちゃんにはなかったのです。
ママと二人でお夕飯を食べて、そして真夜中になりました。
お風呂も歯磨きも終わった七瀬ちゃんは、もう眠るだけ。
悲しい気持ちのままリビングを横切った時に、ちょうど玄関が開く音がしました。
パパがお仕事から帰ってきたのです。
パパ!
七瀬ちゃんの体いっぱいに喜びがふくらみます。ふっかふかです。
七瀬ちゃんはパパが大大大好きなのです。
玄関まで走って迎えると、黄泉から這い出たゾンビのように疲れ切っていたパパにも笑顔が浮かびました。
パパも七瀬ちゃんが大大大好きなのです。
七瀬ちゃんは、パパのために取り分けてあったお夕飯を温めなおしました。
お鍋と小鉢をテーブルに置いて、パパのための晩御飯が整いました。
メニューは、ほかほか湯気をたてる味の染みたおでんです。
「おいしそう!いただきます!」と、パパは喜んで食べてくれました。
がっつくパパを幸せな気持ちで眺めていた七瀬ちゃんは、あっ、と思いつきました。
パパが小鉢に取った大根をちょっとだけ借りて、辛子でハートを描いてみました。
ピリ辛なイエローハートです。
バレンタインデーにチョコケーキは渡せなかったから、せめておでんにデコレーションをしたのです。
でも、七瀬ちゃんはすぐに後悔しました。
チョコのかわりにおでんなんて、なんだかかっこ悪いし、変だと思ったのです。
また、悲しくなりました。
でも今さらハートの辛子を取ることもできず、七瀬ちゃんはちんまりとしょぼくれてパパに小鉢を渡しました。
パパは笑顔で食べてくれました。
そして一月後、ホワイトデー。
七瀬ちゃんはパパからすてきなプレゼントをもらいました。
可愛いクマちゃんのぬいぐるみが、ハートの箱を抱っこしています。
どう見ても、ホワイトデーの贈り物に違いありません。
七瀬ちゃんはびっくりしました。
だって、七瀬ちゃんはバレンタインデーにプレゼントを渡せなかったのに……。
パパは、七瀬ちゃんに言いました。
「あの日、遅くまで働いて極寒の中帰宅したけど、七瀬ちゃんが迎えてくれて、
あったかいおでんを食べさせてくれて、パパは今まで生きてきた中で一番嬉しいバレンタインデーだったんだよ」
そして、イエローハートは鼻の奥にツンときたんだよ。
七瀬ちゃんは、大喜びでパパに抱きつきました。
めでたしめでたし
──以上は、ノクターンで連載中の『愛娘は托卵美少女!?』のホワイトデー絵本です。
18歳以上でお馬鹿ギャグが大丈夫な方は、よければ本編も見てやってくださいm(._.)m
自分で宣伝しておいてなんなんですが、あまりにお下品な小説なのでどうかお読みにならないでください。
お下品な挿絵を描いてるのもバレるの恥ずかしいです。